でろでろ汽水域

読書感想にかこつけた自分語り

シン・ゴジラを観たので

以下、作品の内容全般に触れますのでネタバレ等を気にされる方はご注意ください。

 

シン・ゴジラ』のCMを最初に目にしたのは、ガルパンの劇場版を観るために映画館に足を運んだときだった。上映前に流れる宣伝の中に『シン・ゴジラ』があった。その紹介映像ではゴジラの姿はなく、逃げ惑う人々の姿と喧騒が聞こえるという、映画の内容を汲み取りにくいものだったが、そこから「1984ゴジラみたいな感じなんだろうなあ」と想像できる程度には自分はファンだったと言えるだろう。

怪獣が子供の頃から好きだったこともあって『シン・ゴジラ』には少なからず興味を引かれはした。しかし同時にデストロイア以後の作品がイマイチだったり、ハリウッド版やモンスターバースも褒められた面白さではなかったりで「正攻法としてのゴジラ映画はもうやり尽くされてしまったし、今更なあ」という忌避感のほうが強めにはたらいたというのが正直な感想だった気がする。この感覚は昨晩、地上波放送された際にアニメ版ゴジラの映像が流れたときにも味わった。ファン各々が「面白かったゴジラ」(あるいは怪獣映画)の思い出を持っていて、多様なマイナーチェンジ版が生まれることに対しては否定はしないけれども、だからと言って違和感を抱えながら積極的に観たいとも思わないし、今更そこまで面白いゴジラ映画が出てくるわけないもんね、という諦観を少なくとも私は持っていた。

そして昨晩、初めて地上波で『シン・ゴジラ』を観たわけですが。まあ。なんだ。

映画館で見ればよかったなあ……。メチャクチャ面白かったなあ……。

と、興奮&ガックリに襲われたわけでした。

 

なんと言っても物語が誰の目線で、なにを中心に進んでいくかが明確であることがよかった。テンポが早く緊張感が持続したまま物語が進行していったのが印象的だった。怪獣映画の見せ場がわかっている、の一言に尽きる。そこに目一杯時間を割いて、映像の工夫も惜しまなかったように思う。例えば対ゴジラの会議シーンでは怪獣と戦う人間たちが奮い立ったり、それを倒すべく自衛隊の部隊がこれでもかと展開したり、それをあざ笑うかのように圧倒的な破壊力を見せつけたり……。そういう一切合切に注力したのが本当にグッジョブであった。

あんまり言いたくはないが、だいたいこの辺に過去にトラウマを抱える主人公覚醒イベントとかつまらん確執を抱えた元恋人との仲直りとか天才的素養を持った生意気スーパーキッズ登場とか野心剥き出しの政府関係者なんかが絡んできて「アーッ! 三文芝居はどうでもいいわ! 怪獣出せバカ!」となって醒めてくるんだけども、そういうのが一切なかった。英断としか言いようがない。

そして、ゴジラが絶望的に強い、というのもポイントだったと思う。深海魚のオバケみたいな風体で街をグシャグシャにしながら突き進むモンスターパニックとしての前半の流れから、自衛隊による火力攻撃の失敗と首都の大規模破壊、政府・経済中枢の壊滅。ここでクローズアップされる、モンスターという生物災害から、生物の形をした厄災そのものへの変貌! この描き方が見事だった。「おっ、ゴジラ火ぃ吐いた、やれやれぃ!」と思ってた1分後には開いた口が塞がらなくなるほどの非常事態になってしまう圧倒的な破壊ぶり。これを予備知識なしで映画館で観た人の感動たるや如何程であったかと嫉妬の念を禁じ得ない。

この怪物を倒すための人間同士の政治的な攻防や作戦実行に向けた奮闘も魅せる魅せる。敢えて悲惨な情景を大写しにすることなく、淡々とシゴトを追求して行く姿に『舟を編む』が頭をよぎったのが我ながら可笑しかった。働き詰めの割にあんまりヨレてないワイシャツとか、非常時なのにいつも綺麗にヒゲが剃られているのが気になったりもしたが、そんな細かいツッコミを入れる余裕もなくスピーディーに物語が突き進んだのも好印象だった。「もう時間が無い!」というハラハラを共有できたように思う。最後のゴジラがピシピシピシィと凍っていったシーンでは「やった!」と思わず口にしてしまうほどにのめりこんでしまった。作戦終了時に大歓声に包まれるでもなく大喜びするでもなく「おーし、仕事終わったぁ」という緩みが前面に出てきたところが愛おしかった。いやぁ。やっぱり怪獣映画って本当に良いものですね!

 

最後にまた昔話をするが、ゴジラは一部作品を除けば人類の味方であり、場合によってはミニラという子供を持つ父親であったりもした経緯がある。それらの作品は純粋に怪獣映画として観た場合、やはり面白味に欠けたというのが個人的な意見だ。それは私だけが感じていたものではなかったようで、1984ゴジラゴジラが駆逐すべきモンスターとして描かれ、その直後に続く『ゴジラVSビオランテ』のキャッチフレーズは「勝ったほうが人類の敵になる」だった。人類とは相容れない怪物としてのゴジラ。その魅力をさらに追求し、天災、あるいは純粋な厄災として描くためにはどうするかの延長線上を極めた作品が『シン・ゴジラ』だったと思う。

本当に面白かった。大スクリーンで観られなかったのが返す返すも悔やまれる。