でろでろ汽水域

読書感想にかこつけた自分語り

読書感想:『オーパーツ 死を招く至宝』蒼井碧

 単刀直入に言うとミステリーとしてもエンタメとしてもガッカリな出来だと感じているので、読んでいて気持ちのいい感想文にはならないだろう。ご容赦を。

 

 あまり面白くなかったとはいえ、ぶらりと立ち寄った本屋で平積みになっているのを見掛けてタイトルの絶妙な胡散臭さに惹かれて購入したのだから、動機に対しての目的は十分に達成されていると言っていい。しかし気になっているのは、この作品が第16回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞しているという〈箔〉の存在だ。

 オビやカバーで『このミス大賞』を謳っている作品としては、ここ1年で大津光央『サブマリンによろしく』と桐山徹也『愚者のスプーンは曲がる』を読んでいるが、前者の『このミス大賞・優秀賞』はともかく後者の『このミス大賞・隠し玉』などというよくわからないラベリングは気持ちが悪い。この二作を比較しても、多重構造で核心がなかなか見えてこない上に終盤大きなどんでん返しが炸裂する『サブマリン』に比べると、SF方面に比重を置く『愚者』の読み応えはかなり落ちる。とても〈ミステリー〉という1ジャンルを同じ尺度でふるいに掛けたとは思えない大賞、受賞があまりに目につく。

 そう思って応募要項や募集対象を見直したところ、一番最初に、

ーー本大賞創設の意図は、面白い作品・新しい才能を発掘・育成する新しいシステムを構築することにありますーー

 とあった。今更になって知る驚愕の事実。

 

 そんな賞なら『このミステリーがすごい!』大賞なんて看板は降ろせよ!

 

 なんだそれは。『宝島社ミステリー新人賞』とかでいいではないか。購入者は(少なくとも私は)ちらりと帯を見て「ははあ、なるほど。このミステリーはすごいのかあ。評判がいいのかあ」と思ってしまうわけである。すごいミステリー、となれば頭に浮かぶのはこれまでに読んできた森博嗣東野圭吾米澤穂信有栖川有栖などが生み出してきた傑作の数々だ。そうしたベストセラーの本格派を想定しながらページを開いたのに、アニメ絵の挿絵が似合いそうな軽薄な物語が始まるので「なんじゃこりゃ」となる。私の気持ちのほうがよっぽどミステリーである。うまいこと言った。

 とにかく私はもう『このミステリーがすごい!』大賞の看板を背負った宝島社の作品は買わない。『本屋大賞』が形骸化し、創設時の意図がほとんど達成されなくなったという批判もよく目にするが(恩田睦『蜜蜂と遠雷』が直木賞とダブル受賞したことが話題になったが、そんなことがあってはならないのが本屋大賞だったはずだ)、『このミス』に関しては賞としての意義や役割を正しく反映したネーミングの看板に掛け直すところからやり直してほしい。この賞が廃止されるまで、私は受賞作に憎々しい視線を送り続けるだろう。

 

 コンテストへの悪口ばかり書いてしまったので作品についても少し触れる。

 私は上記の通り本格的なフルコースを期待して買ってしまったので虚を突かれてしまったが、ジャンクフードとしては決して悪くはない。むしろ美味しい部類だろう。私自身オーパーツを始めオカルト全般に興味津々だった頃があり、いまも少なからずそうしたニュースを見掛けると胸が高鳴る。そうしたワクワクを根底に据えながらミステリーとしてのお話が展開していく。

 作品内で披露される世界的に有名なオーパーツについての知識や考察に関しては面白く、その魅力に触れながら、まさしくそのオーパーツをベースにした事件が起こる展開には胸が踊る。登場人物のやりとりも軽快でテンポもよく、オーパーツというなんだか胡散臭い奇妙で不思議な存在を中心に、同じく胡散臭い人々が喧騒を巻き起こしていく姿はコミカルで愉快でもある。

 

 ただし、軽快さは描写の軽薄さでもあるし、テンポのよさは捻りの無さでもある。あまたに存在するミステリー小説の中では平均点以上の価値を見出せないことは事実で、それが『このミステリーがすごい!』と銘打って書店に並ぶのであれば、その商業的魂胆に対して私は嫌悪感を隠せない。

 さらに言えば、本作を含めて私が読んだ受賞作のいくつかは、トリックの薄さと人物描写のコミカルさに対する比重から鑑みて、今後作家として大成することはあっても〈ミステリー作家〉として大成するような作風とは思えない。本格ミステリーばかりがミステリーとは言わないが、その名を看板として掲げる以上、トリックに関しては高い水準を設けてもらいたい。

 以上。文句ばかりになってしまった。反省。

 

※2月20日 追記

 あとあと調べたところ『このミステリーがすごい!』と『このミステリーがすごい!大賞』はまったく別物だった。前者がミステリー作品全体からランキングを発表する一方で(記事内で本格ミステリー作家として名前を挙げた人たちが多く受賞している)、後者は記事内の通り新人賞的な立場を取っている。

 しかし広告やオビにほとんど同じ名前を冠した看板をひっさげて、作品の質にはトッププロとアマチュア卒業くらいの差があるのだから、ますます「詐欺じゃないか」という疑念が強くなった。勘違いした私が一番マヌケだが、この勉強代はそれなりに根に持たせてもらおう。