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渡辺源四郎商店『洞爺丸ものがたり2024』感想

 去る9月28日、29日の両日、青森市は渡辺源四郎商店しんまち本店にお邪魔させていただいた。なべげんさん主催の『北のまほろば祭り2』に【けやはす演劇部】として出演し、私自身は初めての朗読劇、けやはす演劇部としても初の県外遠征と初めてづくしの二日間を過ごさせてもらった。部を発足するきっかけとなったミュージカルで演出を務められた畑澤聖悟先生のお膝元での公演ということもあり、帯同したメンバー一同、特別な気持ちで舞台に挑んだ。
 至らないところも多々あったと反省しきりであるが、まずは楽しく公演に臨むことができたことに感謝申し上げたい。なべげん商店のみなさま、会場を共にした他団体のみなさま、スタッフ・制作のみなさま、快く青森に送り出してくださった部員のみなさま、そしてご観劇くださったみなさま、本当に本当にありがとうございました。

 さて、いつもならこの調子で青森への道中の出来事などを含めた日記を一万字くらいブワーッとやるところなのだが、それらは後にして『洞爺丸ものがたり2024』の感想を先に書かせていただきたい。記憶が少しでも新しいうちにまとめておきたいし、感想は公演後早めに上がっている方が演者も嬉しいに違いない(何様か!)。
 では、以下感想です。ネタバレなどを気にする方はご注意ください。

 

 圧巻の芝居だった。40分に満たない公演時間だったが、事件当時に数日間タイムスリップしたような不思議な心持ちがして、終演後は平静を保ってアフタートークに参加するのが難しかった。
 ある時点から先、役者はもう役を演じていなかった。舞台の上で当たり前のように船と人間が、生きて、笑って、泣いて、死んで、弔われていった。洞爺丸がいて、八甲田丸と摩周丸がいて、事故当日の通信士がいて、事故の遺族がいた。これが劇空間というものか、となんだか恐ろしい気持ちになった。
 芝居が観客の頭の中で「ほんとうのこと」になったとき、そこには現実の痛みや悲しみの手応えが確実に存在する。それは気持ちのいいことではないかもしれないが、それでもそうした痛切な痛みを感じることができるのは幸せなことなのだろう。そんなことを思った。

 畑澤脚本の怖いところは、コメディだエンタメだと気を許して胸襟を開いているところに、冷たくて尖ったやつがそうと思わせないさりげなさでグサーっとくるところだと感じている。そして気がついたらもう抜けない。奥の奥まで深く深く刺さり続ける。
 さっきまでみんなでキャッキャウフフしていたと思ってたのに、なんかシームレスにえらいことになっている。頭に船の模型を乗っけてふわふわしたトークに興じていた姉妹が、気の良さそうな青年が、ダンスを踊っていた雰囲気が、いつの間にか客席ごと大シケの海に投げ出されているのだ。
 大荒れの真っ暗な海で強風と大波に翻弄されながら、悲痛な救助要請を叫ぶ洞爺丸。陸地から励ますことしかできない通信員の無力さ。船が溺れ、沈んでいく姿が想起させるものは筆舌に尽くし難い。孤独、後悔、無念、さまざまな感情が押し寄せる一連のシーンは、まるで資料映像を見ているかのようだった。リアルなセットはないにも関わらず、洞爺丸事故への「共感を強いる」と言っても過言ではない表現力の奔流に、ただただ驚愕させられた。こうして思い出しながら書いているだけでも、涙腺が緩んでくるほどだ。

 事故の後日談や遺族の証言が語られる中、最後に姉妹船がそれでも姉の洞爺丸は誇りだったと振り返り、自らを含めてその後の社会を支えてきたことに涙しながらも胸を張るシーンは、辛く悲しい出来事がどんなにあろうとも、それでも強く生きていこうとする人間讃歌の慈愛に満ちていた。
 ただ悲劇としてあるだけでなく、畑澤作品には、そこに生き、ともにあった生活への愛着やユーモアを、悲しみや怒りよりも力強く照らし出そうというエールが込められているように思う。悲しくも力強い、生きる力を漲らせた演目だった。

 今更になってしまうが、役者のみなさんも本当に素晴らしかった。
 洞爺丸役の渡邊望美さんの佇まいは特に印象的だった。気品と誇りを感じさせつつ柔和な態度で姉妹船や記者の質問に応対し、まるでトップ女優のような雰囲気の前半、台風が近づく中で出航準備を進める際の仕事人としての口調と仕草、そして悲痛な最期……。見たことも会ったこともない、なんとなく教科書で知っている「洞爺丸さん」がそこにいた。なんだ洞爺丸さんって。船か人か。洞爺丸さんは洞爺丸さんだが。人間は説得力のあるナラティブをぶつけられると認知が整合性を後付けでなんとかして、納得できるところで理解しちゃうんですね、と思った。世界は想像力の力技でできている。演劇みたいだ。
 三津谷さんと音喜多さんの八甲田丸と摩周丸の姉妹は可愛らしくて「あらまあ、二人でお仕事えらいわねえ」と親戚のおじさん目線で眺めていたら、後半では遺志を継いで使命を全うしたストーリーテラーに変貌していてゾッとさせられた。ほかのキャストさんも航海士、記者、船員、遺族とくるくると役割を変えながら、それぞれに雰囲気を一変させて舞台を彩っていく姿が格好良かった。
 すごい舞台を見させてもらっていると感動する一方で、こういう凄まじい技量と集中力で構成された芝居に、自分はまだまだ立ち入ることはできないという地力も否応なしに痛感させられて、ほんのり悔しさも感じた。お陰様で私もだんだん生意気になってきています。いつか自分もと大それたことを思いながら、これからも研鑽を積んでいきたい。

 終演後、ロビーで本作の原作である『洞爺丸ものがたり』と、同じく青函連絡船を題材にした『海峡の7姉妹』のDVDを購入させてもらった(少し前に観劇した『法螺貝吹いたら川を渡れ』も)。
 今回の公演に出演していた金谷藍子さん(函館の【芝居組「虎」】から出演)が、土曜日の終演後の懇親会で「これらの作品は自分にとって特別で、とても大切に思っているのだ」と心底嬉しそうに語ってくれたのが印象に残っている。少し気持ちが落ち着いてから、こちらの作品もじっくり鑑賞したい。

 以上、甚だ簡単ではございますが、感想でした。
 そして、そういうとんでもない舞台の前座としてね、我々も同日同時刻にやらせていただいたわけですけどね……。それはまた後日の記事で。

 次回へ続く!