でろでろ汽水域

読書感想にかこつけた自分語り

7月2日 読んだ本の感想

会社での休憩時間にちくちく読んでいた『戦場のコックたち』(著:深緑野分)読了。

タイトルと最初の数ページを立ち読みして購入を決めたのだが「食いしん坊だけが取り柄の俺。毎日腹いっぱい食うことだけが楽しみなんだけど、世間は第二次世界大戦のキナ臭い空気が充満するばかりで俺の胃袋はすっからかん。一念発起して軍隊に入隊した俺はコック兵の立場もゲット! これで食いっぱぐれることもなく、ついでに戦果のひとつも挙げて故郷に錦を飾ってやるぜ! と思ったのもつかの間、俺の部隊はよりによって欧州戦線の最前線へ突入が決まっちまった! さすがにここまで危険な任務とは聞いてないって! これから俺はどーなっちゃうの〜〜〜?!」みたいなノリだと思ってたら(伝わるか)読み進めるにつれて戦争色が強くなり、中盤からはコック要素はほとんどおまけの血なまぐさい軍記物の雰囲気に。

本の帯ではミステリー物として紹介されていたが欧州戦線を舞台とした本格的な戦争小説が本書の真骨頂であるので、むしろミリタリー物に興味がある人にオススメしたい。というか、これをミステリーとして分類するのはいささか無理がある。ある程度第二次大戦への理解というか興味がないと読み進めるのは難しい気がした。

物語の主軸はノルマンディー上陸作戦からドイツ占領による終戦までを一人の兵士、一つの部隊が戦い抜きながら展開していく。章ごとに不可思議な事件が起こり、その謎を推理・解決するパートもあるものの、同時に物語が進むごとに戦況が悪化していくためそちらの比重は軽くなり、また戦争そのものの存在が幅を利かせてくる。

この辺りは著者が意図的にバランスを変えながら書いたと思われるが、史実を丹念に研究し戦記として読み応えのある作風と、推理の余地を残した難度の高いミステリーを同時進行させる手腕には控えめに言っても驚愕する。どちらかがしつこくなりすぎて片方を損なうということがないのは神業としか言いようがない。

随分完成度の高い本だと思ったら案の定、本屋大賞にノミネートされた作品だった。

ただなんというか、前述の通りイージーな作りではないので万人受けはしないかもしれない。本なんて全部そうだろと言われたらそれまでだが、特に欲張りな作りなので知識欲というか活字欲のお腹が空いているときに食べ応えがある一品である。タイトルにふさわしい高カロリーな本だった。

作者の方はなんと同い年。おそろしい才能だと感じた。ただペンネームのセンスはイマイチだと思う。

なんで最後に毒吐いた。