でろでろ汽水域

読書感想にかこつけた自分語り

ミュージカル『アラジン&CATSハイライトメドレー』に出演して

 今年の夏はとにかく暑い。ほとんどの秋田県民にとって、今年は水害と猛暑の年として深く記憶されることになるのだろう、とこれは私個人の願望でもある。こんな酷暑やら自然災害やらは、ごく稀に発生する「珍しいもの」であってもらいたい。先の心配をしても仕方がないのだが、ここまで異常気象が常態化すると気を揉むなと言うほうが無粋な気もしてくる。
 平穏無事に日常を過ごせることのありがたさを実感できるのは良いことなのか悪いことなのか。判断は自身の置かれた状況にもよるであろうが、いずれにせよ、なにかに感謝できる生活態度は謙虚さにつながる。謙虚であることは自制と調和の流れを組むため、いわゆる日本的な居心地のいい社会空間を醸成するのだろう。もちろん行き過ぎれば同調圧力などの阻害も発生するが、基本的には好ましい社会のあり方なのではないかと考えているところだ。
 どうもミュージカルの感想にしては固い走り出しになってしまった。こうしてMacBookに文章をしたためている居間が蒸し暑く、テレビから流れるニュースでも浸水被害について報じているものだから影響を受けているようだ(ここの部分は8月下旬に書いています)。万事、そんな感じである。私は影響されやすく、またそうした流れに対してわかりやすく反応する性質なのだ。
 さて、序文に戻ろう。今年の夏はとにかく暑い。それを実感しているのは、もちろん日々の生活の中で酷暑にさらされているからである。蒸し暑いステージや袖で、通気性がいいとは言えない衣装に身を包んでいればなおさら肌身に感じられる。晩夏のミュージカルに賭けた日々はそれはもう大変に暑かった。

 今回のお話をいただいたのは極寒に沈む1月の終わりのこと。県民市民参加型ミュージカル『欅の記憶・蓮のトキメキ』(以下「けやはす」と呼称)で歌唱指導をしていただいた茂木美竹先生からメールが届いた。
 なんと、先生が主催する音楽教室で夏にミュージカルを企画しているという。会場はいまだ「けやはす」組の残留思念が漂っているであろうミルハス中ホール。演目はアラジンとCATSのハイライトメドレー。すでに「けやはす」メンバーから何人か参加が決まっているとのことだった。
 一度ステージに立ってすっかり舞台の楽しさの虜になっていた私は、二つ返事で参加したい旨のメッセージを返した。どんな役であるにせよ、また舞台に立てるのであれば大歓迎であったし、茂木先生の指導を受けることで今後なにか表現活動をする際のスキルアップにもつながることだろう。願ったり叶ったりのお誘いだった。

 2月に参加者一同で顔合わせをした。つい先日、一緒に舞台に臨んだ顔があり、見慣れない大人を見て少しそわそわしている子どもたちがいた。すでに配役は決められていて私はアラジンにおける悪役、ジャファーをやることになった。ニヤリとした。悪いことを一生懸命やって怒られないのは舞台の上だけだ。世界的に有名なヴィランを演じられるということでテンションが上がった。
 顔合わせでは茂木先生の教室の子どもたちを含めて簡単な自己紹介と挨拶をした。私は、自分はまだ演劇をやるようになったばかりなので、君たちのほうが舞台経験では先輩かもしれないこと、1月の舞台はとても楽しかったので、みんなで稽古をがんばって楽しい舞台にしましょう、というようなことを述べた。
 うまく打ち解けられるか不安だったが(どっちが子どもだ)、教室の子どもたちは歌唱で大人たちと一緒にやることに慣れているのか、あまり警戒されることなく読み合わせや稽古でも話しかけてくれるようになった。特にイアーゴ役のSくんとは役作りや舞台での動きなど突き詰めるために、空いた時間にキャラクターの心情やセリフについて意見を交換することが多くあった。その時々の心境変化だけでなく、ちゃんと伏線やカタルシスの概念も理解しており「最近の子はすごいなあ」と感心した。

 アラジンの稽古を始めてまず気付かされたのは、とにかく楽曲が難しいことだった。音がうねるしハモリが複雑で曲の途中からリズムが変わったりもする。楽譜を渡されたものの、私には楽譜を見てスイスイ歌う技量はない。「けやはす」のときも耳で聞いては実際に歌い、身体に馴染ませてなんとかした。
 しかし子どもたちはこのあたりのことを平然とこなす。さすが茂木先生の弟子たち。コーラスも綺麗だし、他人のパートに釣られることもない。大人組も自主稽古などを重ねて、冒頭の『アラビアンナイト』からせっせと身体に馴染ませた。これを踊ったり演技したりしながら歌うとなると大変だぞと気合を入れ直した。
 ありがたいことに自分にはソロ楽曲もある。劇団四季版のサウンドトラックを購入して聴きながら、イメージトレーニングする日々が始まった。少し前まで毎日やっていた日課が帰ってきたことに不思議な嬉しさを感じていた。

 歌が一通り頭に入った段階でダンスの稽古を迎えた。子どもたち中心だし、アラジンやジーニーはともかくモブは簡単な振り付けだといいな、と思いながら練習会場に出かけたところ、びっくりするくらいカッコよくて本格的なダンスだったのでハードルがさらに一段高くなった。
 ただ、これがビシッと決まったらさぞかし格好いいぞ、と本番が楽しみになった気持ちもあり、こうなったらダンスも反復練習をしながら体に馴染ませるしかねえやと覚悟を決めた。身内には欅ダンサーズや蓮の精もいる。心強かった。

 セリフを頭に入れて、歌とダンスもまあまあできるようになったかな、と思える頃にはもう7月に入っていた。小学生の頃に演劇クラブでやった『セロ弾きゴーシュ』以来のセリフ暗記には存外苦戦した。覚えること自体はそうでもないのだが、いざ演技を含めてほかの役者を入れて合わせてみると、セリフの順番が前後したり(「まさにいま」を「いままさに」と言ってしまうなど)言い回しを間違うことがあった。
 不自然でない程度に意味は通るのだが、セリフが台本の意訳になってしまうのはやはり気持ちが悪いというか自分の美学に反する。私は「脚本は隅々まで意図があって書かれている(書かれるべきだ)」と思っているので、一言一句間違えたくない。だからと言って丸暗記をするのも面白くないと考えていて、なぜこのセリフ順なのか、なぜこの言葉なのかなどを深読みしながら馴染ませる作業を重ねた。そうやって考えたときにどうしても心情と乖離するセリフがあれば、茂木先生に意見を伝えてセリフを修正させていただくこともあった。セリフに関しては丁寧に臨んだおかげで、本番の舞台でもミスはなかったのではないかと思っている(気がついてないだけかもしれないが)。

 あっという間に本番一週間前の稽古の日がやってきた。子どもたちも夏休みの土日は朝から夕方までこの舞台にかけている。保護者の方も衣装の準備や子どもたちの演技の確認、体調管理のために大車輪の活躍をしていた。けやはす組から舞台スタッフとして協力してくださる方もおり、懐かしい本番前の雰囲気にひとりテンションが上がった。
 ただ、舞台の完成度はなかなか手厳しい状況と言わざるを得なかった。袖から見ていてもテンポ感が悪く、物語を構成する集中力のようなものがたびたび散逸するような印象があった。テンポが悪いのは、場面場面の要素が生煮えの状態だからに他ならない。舞台上でのセリフや動きもそうだし、袖での準備や出ハケも含めて妙な間があり緊張感を欠いていた。
 通し稽古ではあったが、茂木先生は問題があると思ったシーンはすぐに中断させて流れを確認した。当時はそれで大丈夫なのかなと訝しんでいたのだが、いま思えば不安だったり不明瞭だったりする場面を流して通し稽古を完了しても、事態が良化しないであろうことは明白で、非効率的でもこうすることがベストだったと感じている。自信を持ってシーンに臨めるようにすることが、結果的には全体の流れを良くするほうに賭けたのだろう。
 甲斐あって本番前日の稽古では心配されたシーンはスムーズに流れ、本番ではもっとこうしよう、という積極的な意見や課題が提案されることにつながった。チーム全体からようやく「やれる」という手応えと自信が感じられた気がした。

 そして本番当日。半年ぶりにミルハスの楽屋に入場した。思ったより早く、この特別な舞台に帰ってこれたことに気分が高揚した。舞台ではすでに照明や音響などの準備が進められていた。けやはすのときにお世話になったスタッフの方の顔もあった。今日一日よろしくお願いします、と頭を下げながら「今日一日だけなのか」と寂しい気持ちになった。まだ始まってもいないのに感傷に浸る暇はない。上手袖にある神棚に手を合わせて様々な思いを早口でブワーと捲し立ててから、平台の設置に臨んだ。
 準備をしながら中ホールの座席を懐かしく眺めていると、妙な違和感を感じた。中ホールの客席ってこんなに狭かったっけ? 2階席ですら手が届くような距離に感じられる。これは私の精神的成長の現れなのか、ハイになって状況判断ができなくなってしまったのか、いずれにせよホール全体に親密さを感じられたことはよかったと思う。
 舞台の準備が整うとサウンドチェックが始まった。その合間を縫ってメイクも同時進行で進む。今回はメイクのために東京から専門のスタッフさんが来てくれていた。お陰様ですごいジャファーに仕上げてもらったので、本番はとにかくひたすら楽しくてしょうがなかった。本番では間違いなく稽古までとはギアが違う演技ができたと思っているが、それは確実にメイクのチカラである。メイクしてくださった方たちも化粧のデキや舞台を楽屋モニターなどで楽しんでおられたようで、それも嬉しかった。本当にありがとうございました。
 うきうきとした気分で最後の通し稽古を済ませる。現場でやってみたら想像以上に照明や舞台美術が豪華で、おそらく演者が一番驚いていたと思う。いよいよ本番が近づいてきたというザワザワした高揚感と緊張が身体に満ちてくるのを感じた。通し稽古にケリがついたのは開場直前であった。栄養と水分を補給してベルが鳴るのを待った。

 開幕直前、緞帳の降りた舞台の中で、茂木先生が円陣を組もうと言い出した。いやいやもう客席埋まってまっせ、いくら緞帳の遮音効果が高くてもここで声あげたら聞こえまっせ、と思ったがしっかりやった。あとはなんでも来いである。

 本番については、正直特に言うことはない。これまでの中で一番いい形で舞台が進んで行ったと感じている。メンバーの努力がしっかり結果になって舞台に出ているなとどこか客観的に思いながら、自分は自分のやることに集中した。
 一点反省するとすれば、メイクをかなりばっちりしてもらったので、顔を上目に向ける意識と目を見開く演技を気持ち多めにしたほうが良かっただろう。ついつい役にハマりすぎて、舞台上の共演者目線でやりすぎたような気がしている。あとはマイクに甘えて少しセリフの力強さも足りなかったかもしれない。この辺りは稽古不足というか普段の意識付けが弱かった部分が素直に出てしまったと感じている。また舞台に立つ機会があれば「本番で客席を意識したときどう動くか」は身体に染み込むくらい練習したいと思う。
 何度も繰り返しているが、今回の舞台でジャファーを演じるのは本当に楽しかった。だからこそ、楽しんで楽しんでただの自己満足なのではないかと不安になるくらいの楽しさを爆発させた「ダイヤの原石」を歌い終えた後の大きな拍手はこの上なく嬉しかった。東海林太郎のときも拍手は聞こえていたが、緊張と台のうえで姿勢をキープするのに意識の7割が持っていかれていたため喜んでいる心の余裕がなかった。今回は、客席からのレスポンスも楽しむことができたのは成長かもしれない。

 閉幕後、お見送りで退出するお客様に挨拶することができた。これも「けやはす」ではできなかったことなので嬉しかった(そのせいで舞台の後片付けを手伝うことができなかった。スタッフのみなさんごめんなさい!)。観てくれた方に直接褒めてもらえるのは、やはり効く。ひとつの舞台が終わった直後ではあるが、まだまだがんばらなくてはと決意を新たにした。
 けやはすメンバーもたくさん見にきてくれていた。素直によかったと言ってもらえて安心したところもあるが、そのうち酒の席でダメ出しもしてもらいたいと思っている。舞台からどう見えていたかを研究することが目下自分の課題である。気心の知れたメンバーからの意見なら、きっと素直に受け入れることができると思う。これを読んでいるメンバーがおりましたら、愛のあるダメ出しをお願いします。愛のあるやつを。

 その後、けやはすでも音楽監督を務めてくださった渡部さんから講評をいただいた。渡部さんは今回のミュージカルでも楽曲を茂木先生のピアノを元に編曲してくださった。音源が配布されたとき、ストリングスや金管楽器などがズンドコしている『アラジン』の曲がピアノメインで華麗にアレンジされているのを聴いて「普通にドライブの相棒に最適」と感動したのを覚えている。渡部さんが音楽を担当したわらび座の「HANA」を直前に観劇したのも、今回の舞台に向けて大きな刺激になった。本当に足を向けて寝られない。
 茂木先生も重荷が降りた、という感じで久しぶりに安堵したようなホッとした表情で、それがとても嬉しかった。今回の舞台で一番神経をすり減らし、苦労を重ねたのは先生に違いない。会場を包んだ大きな拍手と、出演者の笑顔が少しでもそうした苦労を労うことになっていれば幸いだ。そしてこれだけ豪勢な舞台だと、出演者としては懐具合が心配になってしまうが、そこは深く追求するまい。……なにかあればできる範囲でカンパします。

 片付いた中ホールに深く礼をして神棚に次の機会をお願いした。出演者に挨拶をしながら自分の荷物をまとめて帰り支度をする。達成感と寂しさが入り混じった独特の感覚を味わいながら、やっぱり舞台はサイコーだぜと自分の選択が正しかったことを噛み締めながら帰路についた。
 ミルハスを出る頃にはすっかり夜、相変わらず蒸し暑く可愛げのない暗闇が広がっていた。荷物を抱えて歩いていると、中土橋でライトアップされた蓮が迎えてくれた。「けやはす」のときは真冬で、物語のテーマであるにも関わらずそこに蓮はなかった。それを残念に思っていたのだが、いま「けやはす」がきっかけで臨んだ二度目の舞台からの帰り道で満開の蓮が迎えてくれていることに、偶然の美しさを感じずにはいられなかった。思わず振り返ると、煌々と明かりを灯すミルハスと、そこに静かに影を作る政光様の欅が並んでいた。ますます出来過ぎな光景である。
 すでに三度目の約束はしてある。もっともっと末長いお付き合いになりますように、とお願いしながら駐車場の方へ踵を返した。

 

 以上。長い長い振り返りになった。マジで長い。思ったこと全部書くのやめた方がいい。
 それでは最後に、それぞれの配役とその演者に対しての所感などを簡単に書いていきたい。最後に、と書いてあるが、実はここまででこの記事のほぼ半分である。そう、分量としてはまだ半分もあるのだ。推敲していてびっくりした。書き始めたときはもっと簡単に済ませるつもりだったんだけどなァ。

 

アラジン(ほんちゃ)
 主役を務める元蓮の精で元女子力戦士で元名探偵のダンサー。「けやはす」出演者で本番後にもっとも忙しくしていたのは彼女ではないか。月に2回ペースで様々な舞台に立っていたように思う。「中通ヒルズ」や「たんとかだっていってけれ」でコミカルなキャラクターからちょっと怪しい裏表のある役までを短期間に経験したこともあってか、今回もアラジンの声色や仕草などはあっという間にモノにしていた。
 個人的な推しシーンは「プリンス・アリ」で玉座に近づくときの足運び。客席からは背中しか見えないだろうが、舞台袖側からはイケメン王子の横顔がよく見えるのです。普段の親しみやすいキャラと王子になったときのギャップで子どもたちからもモテモテ。ダンスの振り付けを考案して指導役に回るなど、稽古でも主人公ぶりを発揮した。
 ミュージカルのもう一つのキモである歌には苦手意識があるそうで、今回の舞台に向けて歌唱は特に猛特訓を重ねており、ジャスミンとともに本番直前まで入念に音やテンポをチェックをしていた。本番一ヶ月前くらいから、プレッシャーのせいか二人セットで精神衛生が悪化しているような気配が見受けられたものの(明るい表情と裏腹に目が死んでいた)それがかえって両者の絆を深めたようで、本番では見事なカップルぶりを披露した。
 タイトなスケジュールの中での大役、本当にお疲れさまでした。ジャファーとしてウザ絡みするの楽しかったです!
 
ジャスミン
 ヒロイン。劇中のみならず、稽古の日取りなどを確認するLINEグループを率先して取りまとめるなどメンバー全体からしても間違いなく舞台の中心人物。大人たちからも子どもたちからも可愛がられる愛され系。手先が器用で、自作の小物を演者全員に配ってチームの和と士気を高めるなど、表で裏で大活躍だった我らがお姫様。
 個人的に劇中最難関と思っていたソロ楽曲(壁の向こうへ)やらアラジンとのユニゾンやらで、一番歌に苦しめられる役だったと思うが、根性と練習量で克服。役作りでもジャスミンが姫として放つ高貴さや一種の冷たさがなかなか出せず、姿勢や発声から見直して反復練習を熱心に行っていた。その甲斐あって本番ではキッとした「無礼者!」が中ホールに響き渡った。
 アラジンと自主練習を重ね、セリフの掛け合いや感情のやり取りなどは日を追うごとに深化していったが、次第にアラジンへの好意が劇中から現実を侵食していったようで閉幕後もアラジン(ほんちゃ)を推しコンテンツとして崇拝している様子。同様にアラジンを愛するようになったカシームに存在を疎まれるなど、アグラバーの治安悪化が懸念されている。どうしてこうなった。
 
ジーニー
 役者自身もジーニーよろしく、なんか自由。演技、歌唱、身のこなし、すべてが高い水準にあることは見ているだけでわかるのだが、一緒にやっているとどうにも手応えがなく正直最初は戸惑った。第一印象はちいかわのウサギ。プルァ。
 しかしジーニーのことはかなり研究していたようで、アドリブを含めた台詞回しやフレンド・ライク・ミーでの動きなどを見た方には、彼がジーニーを演じるために積んできた研鑽のほどが理解できたのではないかと思う。基本的にランプの魔人はおじさんであるが、彼はどう見たってお兄さんなので今回の舞台でのヤングなジーニーは新鮮だったのではなかろうか。
 劇中でジーニーは最初に出た(歌った)後の出番までが遅く、そのくせ一旦出るとあとは出ずっぱりという役者泣かせな配置だった。担当する楽曲もリズム、高音のロングトーンなど難解なソロが多く、一発勝負の舞台において神経を尖らせる場面が人一倍多かったと思われる。それでもジーニーお兄さんは常にのほほんとした雰囲気を醸しており、子どもたちのストレスを和らげる役割を買っていたのかな、と今更ながら感じている。
 
カシーム
 舞台を見た人は「モデルさんみたいな子がおりますやん」と思ったのではないか。アラジンの友人コンビの長身なほう。長い手足を活かした振り付けがとてもイケメン。身長差のあるバブカックとの掛け合いは袖で見ていても非常に楽しく面白かった。
 劇中では軽そうな雰囲気の役だが、本人は子どもたちのまとめ役になったり、舞台上での動線や演技について率先して大人たちに意見を求めるなど、とても真面目で気配り上手。男性の言葉遣いや仕草を演じるのに苦労していたが、本番では自然と気のいい兄ちゃん感を出せるまでに成長した。
 なお、いつからかは定かでないが、アラジンの親友役を突き詰めるうちにジャスミン同様ほんちゃの熱狂的なファンになってしまった。なにかにつけアラジンの隣にいるジャスミンを排除しようとするなど、ジャファーが改心した後もアグラバーの闇は深さを増している。
 
バブカック
 アラジンの親友にしてカシームの相棒。愛嬌のある立ち回りと賢しい台詞回しは、今回の舞台をご覧になった方の印象にも強く残ったのではないか。物語を外枠からくるくる回すような小動物的な愛くるしさを存分に振りまいていた。カシームとセリフやダンスを一緒に考えたり練習したりする様子をよく見かけていたためか、舞台に限らずコンビなイメージが強い。
 メンバー内でも「ミュージカル」をよく理解しているプレイヤーだったように思う。サッカーに例えると背番号10。緊張した面持ちの子どもたちが多かった中で、彼女は常に笑顔と自信に満ちていた。歌・ダンス・演技のレベルが高く、舞台にいる間はセリフがなくても演技をがんばるなど集中力も見事だった。
 なお、ジャファーに追い詰められるアラジンを助けるため、バブカシが乱入して殺陣を披露するというアイディアもあった。稽古日数や尺の都合で採用はされなかったが、もしそんな場面があったらきっと楽しかっただろうな。
 
ルナ
 茂木版アラジンのオリジナルキャラ。アラジンの幼馴染で彼に恋心を抱いているが、ジャスミンの気持ちを知ると自らの気持ちを隠しつつ彼女を励ますなどいじらしい存在。微妙な心の揺れ動きの表現やソロ曲、大団円のきっかけとなる場面の立ち振る舞いなど難しい役所であり、さらにほかの役と違って「どんな人物なのか」を突き詰めるところから始めなければならないため相当難儀されたと思うが、見事に演じきって茂木版アラジンの世界を構築した。
 稽古では身内側におけるダンスの先生として全体の面倒を見るなど、今回のミュージカル全体の完成度を陰で支え続けた。まさにお月様のような活躍ぶり。
 劇中ではジャファーとの絡みがまったくなかったのが心残り。今後、どこかで共演の機会があることを願っています。
 
イアーゴ
 今回の舞台における私の相棒。妙なカリスマというか注目を集められる素養があり、舞台上にいる間はとにかく目立つ子。持ち前の愛くるしさと可愛らしくも力強い声をブキにジャファーと一緒に暴れ回った。
 エネルギーの内在量が多くそれを発散する蛇口の口径も大きい感じの子で、そのキャラクター性を見込まれてなのか歌に踊りに演技にと広い舞台でひとりせわしなくするシーンが多かった。それだけに猛暑が続く中での稽古は大変だったであろうし疲れもあったと思うが、本番ではひときわ元気に舞台を駆け回ってくれて頼もしかった。
 今回の舞台では母性をくすぐる大人のお姉さんキラーな振る舞いが多かったが、本番当日、メイクをした顔を見たところイケメンの気配を感じた。何年か後には、同年代の女の子を夢中にさせるような少年になっているかもしれない。ずるいぞ。
 
侍女たち
 ジャスミンに仕える侍女……なのだが奔放でお友達感の強さが魅力。歌唱ガチ勢。
 3人いるがそれぞれ個性が異なっており、ジャスミンとの関係性や演じ分けについて細かに指導されていたのが印象深い。楽曲の際にはダンサー衣装で登場し、アグラバーの賑やかな雰囲気に華を添える役割も果たした。なお、彼女らが考えた人物設定では3人ともジャファーのことは全然尊敬していないらしい。フゥン。
 最初に「壁の向こうへ」のコーラスを聴いたときの衝撃は大きく、この人たちに混ざって私が歌って大丈夫なんだろうかと心配になったのを覚えている(おそらくジャスミンの胃痛の遠因でもある)。そもそも茂木先生の弟子が集まっているので歌唱のレベルは高いのだが、その中でも特に優美な歌声にはご来場のみなさんもさぞ驚かされたことだろう。
 本番一週間前の稽古の際、楽屋でお見合い写真のスケッチブックを装飾するのを手伝ったが、確かに胡散臭い王子たちであった。ジャファーに「先ほどの王子も少しばかりいかがわしい匂いがぷんぷんしておりましたなあ」というセリフがあったが、これを経てより実感のこもった表現になった。
 
絨毯の精
 ご存知、魔法の絨毯。絨毯なので喋らず、それで感情表現をしつつ、大体においてアラジンとジャスミンがいる場面に出てくるため目立ちすぎてもいけないという様々なジレンマを抱えた難儀な役。さらに茂木版では驚きの正体が隠されており、伏線を張りながらの演技も求められていた。
 舞台袖などで黙々と振り付けの確認をしていた姿が印象に残っている。役と本人のギャップが大きいメンバーが多い中(失礼?)、絨毯の精は演者と役がシンクロしていたように思う。
 正体が判明してジャファーがひざまずくシーン、自分では様々な感情を込めた演技をしたつもりなのだが、どのように見えるのか映像を確認するのがいまから楽しみである。
 
サルタン王
 セリフ以外の部分での表現方法は控えめながら、アリ王子リプライズでは一転ノリノリで歌い出すなど緩急の難しい役所。王としての威厳を示すため所作を最低限にしつつ、その中で感情の機微やギャップを見せるため、特に動きやテンポ感などにはずいぶん気を配っておられた。
 ジャファーと共演するシーンや絡みが多く、セリフ以外のところでも細かなやり取りが存在したため、打ち合わせや確認がイアーゴの次に多かった。ちなみに個人的な裏設定として、王は王妃が行方不明になってから頼もしさを失ってしまい、ジャファーはこのような王に国を任せてはいられぬ、と考えて暗躍するようになりました。
 王の衣装は派手なためか蒸し暑く、装着に時間を要し、おまけに動きにくいため通し稽古後の王は特にお疲れのご様子であった……が、男性陣ではアラジン後に唯一CATSにも出演。オールドデュトロノミーの名を高らかに歌い上げ、こちらでも気品の高さを示した。
 
アラジン母
 アラジンが正しく生きる決意を固め、最後にこれまでの苦労とがんばりを認められて大団円につなぐ存在。けやはすメンバーからは「Z先生」と呼ばれ、それは今回のメンバーにも伝染した。
「けやはす」で老年の明子を演じた際はしばしば畑澤先生から「上品すぎる」と演技指導されているところを見かけたが、今回の舞台では持ち前の上品さがアラジンの尊敬する両親であるという説得力を生み出していたと思う。稽古の隙間時間には、妹役の子どもたちと役について楽しそうにお喋りしている姿をよく見かけた。
 舞台設営でもてきぱきと指示や運搬を担い、稽古前などの柔軟体操ではZ先生の身体の柔らかさにいつも驚かされた。舞台に立つために積み上げてきたものが随所から窺い知れる、まさに「先生」だった。
 
アラジン父
 当初の台本には存在しなかったが「母親が出るなら父親も出てええやろ」の精神で登場。「けやはす」でもチンピラ、医者、ナマハゲと七変化を重ねたAさんが務めた。
 当初は舞台のお手伝い的な参加だったのだが、役が与えられ、セリフが追加され、しかも最後の重要なところに出ることが決まったことにしばらくは困惑されていた。しかしアラジン母のZ先生とともに妹役の子どもたちともあっさり打ち解けて、感動的な親子再開シーンを演じ上げた。
 
妖精さんたち
 今回の舞台におけるナビゲート役。物語の導入や進行、要所でのコーラスも務め、ラストでは私の黒衣を剥ぎ取ることでジャファーの更生にも一役買った。
 アラジンのお話自体からは独立した、いわば神の世界の住人であるため、子どもたちは役の性格を掴むのにかなり苦戦している様子であった。妖精の母役であるSさんと出ハケのタイミングや振り付けなどを丹念に確認していたが、努力の甲斐あって本番では摩訶不思議な物語の牽引役を立派に勤め上げた。
 いたずら好きでチャーミングな3人組が衣装をきて袖や楽屋通路を走り回っている姿は、本物の妖精みたいで微笑ましかった。
 
アラジンの妹たちと友人
 こちらも茂木版オリジナル。役としての関係性以上に仲良しの集まりで、稽古では先に紹介したアラジン父母と話し合ってキャラクター性を深めていた。
 モモはまさにしっかり者の長女という感じで声も表情も凛としていて舞台映えするなと思って眺めていたし、ココは「伝説の書」を解読する文化系と思わせつつダンスのキレが良いギャップが面白かったし、ササははにかみやでマイペースな印象を与えつつアリ王子やラストでは楽しそうに演技やダンスをがんばる姿が印象的だった。身長が同じくらいなので似通った印象を持たせつつ、個性がそれぞれ出ていて見ていて楽しかった。
 妹たちの友人でパン屋の娘アンは今回の舞台メンバー最年少。広い舞台で、マイクに声を拾わせるための動線確保をいかに自然に振る舞うかや、妹たちとのセリフ回しなどの演技をみんなでがんばっていた。
 
アンサンブルのみなさん(街の人、衛兵)
 けやはす組と歌唱ガチ勢(その2)とマンドセロ奏者で構成されたアグラバーの街の人たち。こう書いていてもアンサンブルと呼ぶには個性が強い。ジャスミンとのやり取りに懐かしさを感じた関係者も多いのではなかろうか。
 その中でもおそらく異彩を放っていたであろうTさん。ジャスミン相手に「ンまあ!」と目立つ奇声をあげたり、アリ王子のお通りでソロパートを歌い上げるシーンのインパクトは絶大だった。大人組の楽曲練習で音とりの指導や歌うためのコツをわかりやすく指導してくれたりと、舞台以外でもたくさん助けていただいた。
 さらに、今回の衣装を手直ししたりアレンジを加えたりといった衣装周りの作業も一手に引き受けてくださり、演者がのびのびと舞台に立つことができたのはTさんの尽力があったからこそと言っても過言ではない。ジャファーとは縁がなかったので(ほとんどの演者と縁がないな)どこかで共演できたらと思っている。なんとかならんのか。
 
舞台スタッフのみなさん
 舞台上には立たなかったものの、今回の舞台を支えるために尽力してくれたスタッフのみなさん。本当にありがとうございました。けやはす組の方々にはすっかり甘えて頼りっぱなしになってしまった。いろいろ思うところはあったとお察ししますが、後ほど酒席かなにかでお返しさせてください。
 そして特に、自身の活動で忙しい中、稽古で欠席者の代役を務めたり練習風景の動画撮影とアップロードを担当してくれたYさん。稽古ではよくアラジンの代わりを務めてジャファーとのやり取りも確認させてもらいました。私にとって、アラジンはほんちゃとあなたのダブルキャストでした。本当にありがとう。