でろでろ汽水域

読書感想にかこつけた自分語り

プレステの『MOON』てゲームを知ってるかい?

発売は98年だったか。ゲーム雑誌を読んでいて、その世界観に真っ先に惚れ込んだのは弟だった。可愛らしくポップ、それでいてどこか儚さを感じさせるパステルカラーの色使いと開発画面の写真を眺めているだけでも、他のソフトとは違うセンスの良さが溢れ出ていたのを覚えている。ただ、私は大作RPGやアクションゲームを好んでいたため「雰囲気は良さそうだけど買うまでもないかな」という位置付けだった。可愛らしさよりは格好良さを選ぶタイプだった。まあ結果的に弟の審美眼が正しかったわけだ。

 

あらすじを簡単に説明すると、主人公はゲームが大好きな普通の小学生。ある晩、いつものように夜更かしをしてゲームに熱中していたが、母親に叱られて渋々ゲームを止めて床に就く主人公。ところが電源を落としたはずのゲームが再び点灯、不思議に思ってテレビに触れるとゲームの世界に飛び込んでしまう。舞台は先程まで遊んでいたRPGのようで、その内容は勇者となって魔物を倒しながら経験を積み、強くなって魔王を倒し、世界を救う物語だった。ところがゲームの世界に暮らす人々は勇者のことをあまり心良く思ってない様子。元の世界に戻るにはゲームの世界で「ラブ」を集めなくてはならず、そのラブは人々の力になったり悩みを解消したり、勇者に殺されてしまったモンスターたちの魂を救うことで得ることができる。主人公はいろいろなラブを集めながら、ゲームの世界の成り立ちと謎に挑んでいく……。そんな感じ。

 

集めたラブの数でレベルアップし、主人公は活動時間が伸びる。時間経過で体力が減ってしまうので、その前にベッドで休まないと力尽きてゲームオーバーになる。探査をしながら活動範囲を広げていくタイプのゲームだ。

ゲームの世界には昼から夜などの時間経過があり、街の人々もそれに合わせて生活を変えている。またモンスターたちもそれぞれ違った生態を備えており、魂をキャッチするためには活動時間帯や行動を把握する必要があるなど一筋縄ではいかない。場合によっては釣りや音ゲーのようなミニゲームをクリアしたりと、あまりマップは広くないが退屈させない作りになっている。

ゲーム内容もなかなか興味深いのだが、イラストの淡い色使いや、愛嬌のあるユーモラスな造形の割にどこか影があるキャラクター、美しく優しい雰囲気の中で隠しきれていない荒廃しつつある世界観など、提供される世界の形がとにかくめちゃくちゃよかった。特にモンスターたちはクレイアニメのような造形でとても可愛かったのを覚えている。

主人公はMDプレイヤーを持っており、道中では好きな音楽を流せるのも画期的な要素だった。『MOON』のサントラは中古価格が5万円オーバーの貴重品になっているほどで、実際素晴らしい出来栄えである。いまでもたまにドライブ中に聴いている。

 

さて。なんか説明がすごい長くなってしまった。

この『MOON』。えへんぷいと魅力を語ってきたが、実は私は真のエンディングを見ていない。ラブをすべて集めてクリアすることでトゥルーエンドにたどり着けるらしいのだが(それすら誤った記憶かもしれない)、あるミニゲームが何度やってもクリアできず条件を満たせなかったのだ。

そしてエンディングに関しても、正直よく覚えていないのである。とても明るい音楽に乗せてスタッフロールが流れ、背景には現実の世界の写真がぽんぽんと出てくる物だったのは覚えているのだが、主人公が無事に元の世界に戻れたのか、ゲームの世界は救われたのか、哀れな勇者はどうなったのか、その物語の重要な部分がさっぱり記憶に残っていない。なんだか後味の悪い、寂しいエンディングだった感触はあるのだが……。

 

当時はまだ理解できない世界観やロジックも存在していたので、いまプレイしたら存分に魅力を享受できる気がするのだが、当時といまではユーザーインターフェースがまったく違うので、むしろ操作をストレスに感じて楽しめないかもしれないとも思う。書きながら思い出したが主人公のマップでの移動速度が遅く、いらいらした覚えがある。「なんだか面白いゲームだった気がするな」という気分だけを持っていたほうが良いのかもしれない。

実はサントラだけでなくソフト本体も案外貴重品である。アーカイブでは出ていないようなので中古品を探すしかないが、状態の良い物だと1万円弱はするのではないだろうか。まあ私は買わないけども。

 

散発的に語ってしまったが、とても魅力的なゲームでコアなファンはいくらでもいることは間違いない。考察や攻略をまとめたサイトやプレイ動画も探せばおそらく見つかるだろうが、私はそこまでするつもりはない。

記憶の片隅に名作として引っかかっている美しい思い出を、手を伸ばすでもなく眺めているのもそれなりに風情があって面白い、ということを書き残そうと思った次第だ。

 

そんなとりとめのない物を読まされる方は、たまったものではないかもしれないが。