でろでろ汽水域

読書感想にかこつけた自分語り

読書感想:『異人たちの館』折原一

 書店にて「掘り出し物」を謳うポップがついていたのが気になって購入した作品。

 読んでみたらどうということはなく、あんまり面白くないから百凡に埋もれていったんでしょうな、で納得してしまう作品だった。掘り出し物というよりは、出土品である。掘ったら、出てきた。

 最近は(というには少し前になってしまったかもしれないが)B級映画がブームだと耳にした覚えがあるが、本作は全体的にそういう趣向に近いように感じた。私は映画をほとんど見ないので比喩が正確かは微妙なところだが、少なくともハリウッドの大作のような作品ではないし、ハンドクラフトでインパクトのあるタイプ(古いけど『ブレアウィッチ』とか)の気の利いた作品でもない。なんというか、おしなべて長所がない本だった。ひどい言い方になってしまうが、それ以外の表現がない。

 

 面白くなかった、と一刀で切り捨てるほどダメではないのだが、作品のプロットに最低限の肉付けだけが施されたような描写に終始しているように感じた。600ページを超える長編でありながら、物語の進み方はかなり淡白である。

 物語を進める視座という役割以外に取り柄を持たない魅力を欠く主人公。ストーリーの鍵を握る、謎に包まれた母子の歪み方は、満遍なく狂っているせいで不気味というより滑稽に見える。様々な人々への取材を通じて物語は進展するのだが、このインタビュー形式の会話にももうひとつ工夫がなく、登場人物には人間臭さや個性がまったく感じられない。主人公に迫る脅威であり、謎を解く鍵となる〈異人〉の存在も中途半端で、ホラーにもサスペンスにも振り切れていない。一番気になったのは、理由もなく主人公にベタ惚れする、取って付けただけの美人ヒロインの存在だ。主人公の感情の振幅はこのヒロインに対する描写と家族への反抗程度しかなく、いずれも総じて最後まで煮え切らない。

 列挙するうちにフォローが不可能になってしまったから書いてしまうが、随所で「ヘタだなあ」と思いながら読んだ作品だった。面白くないな、舐めてるな、は思ったことがあるが、ヘタだな、はプロの本を読んでの感想としては初めての経験で、逆に新鮮だった。感情・風景の描写、仕草や表現、セリフ(これが一番気になった「え、なんとかについてですか?」みたいな進行上の脚本のようなセリフが頻出する)あらゆる構成が単調で、本筋のストーリーを語る説明書以上の役割を果たしていなかった。

 

 物語のプロットは面白いものがあるのだが、それだってたとえば構成とアイディアで作品として勝負する『セブン』や『イニシエーション・ラブ』の乾くるみの足元にも及ばない。世界観の歪み方や狂い方の切れ味で作品を強引にブチ上げる、曽根圭介のような突き抜けた悪意もない。

 この作品の構成上、わざと下手に書いているのかな、というミスリードも疑ったのだが終盤のクライマックスでも特に印象は変わらなかったので、そういうわけでもないようだ。

 

 たまたま私がこの作品の発想や構成に対する、後継発展や上位互換のような作品を多く読んでしまったために、本作が楽しめなかったのだと結論付けよう。

 なるほど、PS4を遊ぶ現代にファミコンレトロゲームを遊ぶような感覚を味わったのは確かだ(ただしそれは、PS4の箱に入っていたが)。

 

 このまま悪口を続けるのは自己嫌悪に陥りそうなので、この辺でやめておく。

 久々にひどい読書感想を書いてしまった。

 

追記:この作品の上位互換、と感じた作品は『ハリー・クバート事件』でした。表題作を四半世紀分ブラッシュアップすると、だいたいこの作品になるのではないか。個人的な感想ですが。