でろでろ汽水域

読書感想にかこつけた自分語り

異物混入の話

ペヤングマクドナルドの食品への異物混入が起きた一連の問題。食品、というか生鮮食料品を扱う仕事をしているので被害者・被害者双方の面から見て興味深い事例だと思いながら日々ニュースを追いかけている。でもまあ個人的な意見を素直に言えば、騒ぎすぎだろう、というのが正直なところだ。

食品に限った話ではないが「安全」というのはコストの塊である。しかも商品価値として原価に転化させ辛い。安全管理だのトレーサビリティーだのは真面目にやるととんでもない手間と金額が掛かる一方で、何かしらの問題が表沙汰にさえならなければいくらでも手を抜ける部分でもある。

もちろん今回問題が起きた企業側としても手を抜いているわけではないのだろう。A5の牛肉を出荷してるとかなら話は別だが限られた予算でそこまで万全を期するのが無理なのだ。そこは同業者として同情する。

槍玉に挙げられるのは言い方は悪いが「安かろう悪かろう」という食品業者だ。安いからといって食品に異物が混入することを看過して良いわけではない。加工工程に問題があるのは事実だし、それは改善しなくてはならない。

私が気になっているのは安全面を理由に「安かろう悪かろう」を駆逐するような流れがある点にある。

エネルギーでもインフラでもそうだが、私は「安全を求めるなら、まず安全を維持することに対する対価を払え」と考えている。どうもその辺の意識が日本人は国民性として弱い。チップ文化が無いせいだろうか、サービスは当然のように捉えている風潮がある。実際はそうではない。高レベルなサービスを維持するにはそれなりの金額が必要になる。

日本の治安が良いのは安全の維持にコストが使われているからだ。警察や消防を始めとする公務員に充分な賃金が支払われ、貧しい人々が生き延びるための刹那的な犯罪に走らないように生活保護が受給される。全て経済の恩恵だ。

なのに「貧しくても心は豊か」みたいな何処で見かけたかよくわからん清貧の理想図を追求する人たちまでいたりするので世の中よくわからない。もっと本質的に貧乏を憎まないといけないと思う。

脱線し始めたので話を戻すが、ようは食品でもサービスでもなんでもいいが、リスクヘッジを考えるならそれ相応の金は払わなきゃいけないでしょうということだ。

すき家ワタミが従業員の賃金や労働時間を搾取することによって安価なサービスを維持できていたように、安全管理に関わる雑多な作業を省くことで提供可能になっている商品というのは存在する。手を抜いているわけではない。合理化、簡素化と呼ばれるものはそういうものなのだ。言い方が違うだけだ。

そこへの注意喚起と是正を求める動きはわかるが「完璧な安全」とやらを求めるのであれば、やはりそれ相応の対価は必要になるだろう。

意図せずすっごい真面目に書いてしまった。

よく言われていることだが、仕事において時間と品質と価格の三要素は全てを同時に満たすことはできない。二つを取れば残った一つにしわ寄せがいく。

そういうバランスをいままでは諸外国始め目に見えないところで取っていたのが、日本経済の疲弊で目に見えるところにやってきたと見るべきなのだろう。

食品業界がどうなっていくのか、あんまりいい景色は広がっているように見えない。