でろでろ汽水域

読書感想にかこつけた自分語り

金縛りの話

真っ先に断るが私はいわゆる霊感がまったくないので、心霊現象的な話にはならない。残念。


昨年あたりから眠っているときに金縛りになることが増えた。以前はまったくこういう現象に遭遇することがなかったのは単純に心身が最低限健康だったからだろうと推察している。
異動になってからは毎日午前3時半頃に目を覚まして帰宅すると午後8時だとか、下手するとそのまま社宅に泊まったりだとかしているのでなにか精神衛生系のタガが緩んだんだろう。そら金縛りにくらいなる。

とはいえ自宅で寝ているときには金縛りにはほとんどならない。金縛りになるのは、昼休憩のときに会社で借りているアパートの一室で仮眠をとっているときが大半だ。私の業種は一人二交代制みたいな勤務環境にあり、昼頃に2〜3時間程度の比較的長い休みがあるためその時間を睡眠に充てている。でないと死ぬ。

金縛りの最中には妙な現象が伴うこともある。得体の知れない獣が荒い息遣いで部屋の中をうろついている気配があったり、枕元を誰かがしずしずと歩き回っていたり、台所からぐつぐつと何かが煮えている音と変な香りがしたりする。
当然私は動けない。不安な気持ちを抱えて黙っている。黙っていることを強いられている。そして、はっと目を覚ますとそれらの気配は跡形もなく消えている。

最初こそ「すわ、心霊現象やんけ!」とテンションを高くした私だったが(アパート内を引っ掻き回してお札を探した)、些細な観察を積み重ねた結果、そうした超常現象ではなさそうだと結論付けるに至った。
ようはリアルな夢を見ただけなのだ。脳味噌がなにかの拍子に間違って見せてしまったリアルすぎる幻覚を、実際に起きたものと思い違えているのではなかろうか。


私は脳味噌をあんまりパーフェクトなものだと思っていない。意識や記憶や体験、自分で感じたものを疑わない人は多いようだが、私はそういうものも同時にあまり信用していない。
「忘れてしまう」ことは至極当然に受け入れられているが、記憶が「後から都合良く追加され、結果捏造される」という現象に対してはあまり言及される例を見ない。しかしそういう機構は間違いなく備わっているように思うし、それは綺麗さっぱり忘れるのと同じくらいの頻度で起こっているようにも思う。思い出が美しいのはそのせいではないのか。

もう少しイメージを説明すると、人間は過去の出来事をアルバムのように映像として記憶している部分(実際の思い出す機能)と、事実の羅列を文章的に記憶している部分(どこそこでなにをしたという客観的事実)とで常に情報を行き来させながら相互に記憶をバックアップしている関係にある。気がする。
そして映像的な記憶かあるいは文章的な記憶が時間経過で薄れたときには、反対側の記憶を元に薄れた部分を再生させている。気がする。
その再生の段階において理想的な記憶としてそれを保持しておくために余計な脚色が入り、結果それが捏造されたものになるという可能性は大いにあるような気がしないだろうか?

しつこいくらい「気がする」と書いたのは私が脳味噌に対して不勉強なので、実はとても当たり前のことやあるいは物凄い間違ったことを神妙な顔をしてこうして書いているのではないかという危惧のためである。
なにか間違ってたり変なところがあったら親切な方は教えてください。


かなり話題がズレたが、つまりは金縛りもそうした頼りにならない脳味噌さんが、肉体をきちんと休めずに不明瞭な夢なんか見るからめんどくさいことになってるんじゃないのかと思い当たったのだ。
これ。これを言うためになぜか余計なことをべらべら書いてしまう。私は。

先程の金縛りの最中の不思議な出来事に関しては、たとえば獣がうろつき回っている気がしたとき、確かに横たわる自分の頭の上をのしのしと歩いていったのだが、実際には私は壁際に頭をくっつけるようにして眠っていたのでそんなスペースは存在していないだとか、枕元がずしずししたが私はいつも顔の横に携帯を置いているのでおかしいとか、鍋のぐつぐつはそもそもアパートに鍋がない(逆にヤバイ)とかで経験自体の否定が可能なのだ。
実際になんらかの外的要因(幽霊的なヤツ)によって呼び起こされる幻覚だとしたら、もう少し実際のロケーションに即した展開であってしかるべきである。幽霊がこっそり枕と壁のあいだにスペースを作ったり、スマホを避けて足踏みしたり、ハーデスの釜をオール電化でぐつらぐつらいわせるとしたら、なんていうか、こう、ボツだ。そんなの。


あまり夢を見ないという人も多いようだが私はほぼ毎晩夢を見るし、私が見る夢は質感というか五感にビシバシくるタイプが多い。動物を触った感触や熱、匂いなんかもとてもリアルなので、大好きな動物を飼う夢から目覚めたときの喪失感は結構大きい。ほとんど傷心に近い。
そういうわけなので、金縛りのときにやってくる妙なあれこれもリアルなのだろうと、そんなふうに考えながらいまも週に一回程度金縛りにあう生活を続けている。
最近は慣れたせいか、金縛りにあいながら女を抱いている幻覚まで見ているので全然大丈夫そうだ(ダメかもしれない)。



ちなみに、会社に自称霊感の強い人がいて、いろいろ面白い話が聞けたので次回はそれについて書いてみたい。というか最初からそっちを書いたほうが興が乗ったような気がする。今更だけど。