でろでろ汽水域

読書感想にかこつけた自分語り

読書感想 3冊目

作品名銀河不動産の超越
作者名森博嗣
評価(星2つ)
※作品の内容に触れた記述があります。未読の方はご注意ください。

大学時代に「すべてがFになる」の文庫版をタイトル買いしてから一気にファンになった。既刊本を次々購入し、講義や睡眠の時間を忘れて読書に没頭したのを覚えている。

S&MシリーズとVシリーズはとても面白く読めたのだが、続くGシリーズやスカイクロラは面白く感じられなかったため、中期以降の作品は読むのをやめてしまった。久しぶりの森博嗣作品になる。

一章を読んだ時点では「三谷幸喜のコメディ映画みたいなタイトルと展開だな」という印象だったが、読了後でも一言で感想を言うならそれが自分の一番上手い比喩だと思う。

森博嗣らしい、強烈などんでん返しを今か今かと待ち構えていたら話が終わってしまった。斜に構え過ぎたかと思ってそのまま再読に入ったが、2回読んでも特に印象は変わらなかった。

基本的にライトでクリーンな物語なのだが、一方でこの物語の核とも言える主人公の暮らす奇妙な「家」の描写がイマイチ掴みにくく時間を要した。

ミステリーによくある建物の見取図が目次裏にでもついていてくれればだいぶ理解も捗ったのだろうが、初読では何度か建物の記述を読み直さなければならない場面もあった。

舞台の中心であるこの「家」に馴染めなかったせいか、展開のテンポの良さとは裏腹に情景の消化が遅れて楽しめなかった。本作より遥かに情報量も文章量が多かったS&Mシリーズなどで分かり辛いと感じたことはなかったのだが…。

物語のテーマやメッセージも、それほど強く心を打つものではない。元々、作品自体がそこまで強烈なカロリーを持たないように著者が料理した印象もある。

優しく暖かい物語なのだが、主人公を含めキャラクターがもうひとつ弱かった気がした。スピンオフができるくらい強烈なキャラが一人でもいたらまた違う印象だったのかもしれない。

主人公は様々な場面で迷い、混乱するのだが、その気持ちを読後に引き渡されたような居心地の悪さが残った。

一番のクライマックスシーンが少し前に読んだ本と似ていたり、著者に穿った期待をしたりと読者自身が奇妙すぎたかもしれない。ううむ。不幸。

「銀河不動産の超越」講談社文庫