でろでろ汽水域

読書感想にかこつけた自分語り

マンガ感想 「ダンジョン飯」九井諒子

昨日のISISに日本人が人質に取られ身代金を脅迫された事件に関して、3000字ほどの熱い持論を展開し、自己責任論という無責任こそが国民に返す刃で跳ね返る可能性や、宗教および道徳的教育が友人関係の延長のように行われることで様々な誤謬が存在する現状、今後考えなくてはならない具体的な諸問題などを書いておったら操作ミスで全部消えた。わろす。

さすがにキーボードクラッシャーみたいになった。MacBookに胴回転回し蹴り放つところだった。今後は直接ブログサービス内には書き込まず、ATOKのメモ帳を使うことで悲劇の連鎖を断ち切ることにしている。

閑話休題。気を取り直してエンターテイメントの話をする。梶を真逆に切る。

私は読書もするが漫画もそれなりに読む。というか漫画の方が読む量は多い。

現在定期的に購入している単行本は(連載誌は買わない)先が気になる順に「シドニアの騎士」、「僕のヒーローアカデミア」、「蒼き鋼のアルペジオ」、「ジョジョリオン」、「暗殺教室」あたりがある。有名どころばかりで逆に恥ずかしい。そこらのラインナップに新しい一冊が加わった。

それが表題の「ダンジョン飯」である。今までにない面白さがある。少しその辺を書いてみる。

この作品を知ったのは「話題になってないけど面白い漫画」みたいなネット上の記事を流し読みしていたときだった。ちょうど「孤独のグルメ」のドラマがウケていた時期でもあり、ファンタジーの世界でド真面目にグルメをやっている荒唐無稽ながら地に足の着いた漫画があると評価されていた。

連載されている雑誌がマイナー誌 (コンビニで買えない雑誌:いわし分類)なのでちくちくアップされる画像から中身を想像するしかなかったのだが、それでも十分に面白さは伝わった。単行本になったら必ず買おうとマークしていたのが、もう昨年の夏頃のことだったと思う。そして昨年末にいよいよ単行本になることを知り、どうせ初版本は少なかろうと予約していたのが手元に届いたのがつい先日のことだ。

さて「ダンジョン飯」。その名の通り、主人公とそのパーティーが地下に広がるダンジョン(迷宮)を探索し、その道中で出会う魔物やステージギミックたちを様々に料理し、味わい、成長していく物語だ。頭おかしい。

世界観はまんま昭和に発売されたドラゴンクエストファイナルファンタジーそのものである。騎士、魔法使い、ドラゴン、ダンジョン。その辺りと付き合いのあった人であればその世界に入っていくのは難しいことではないだろう。

そしてその世界に息づく魔物や幻獣たちを、塩胡椒・オリーブオイルなど生活感あふれる手法でもってグルメとして楽しんでしまうのがこの作品の醍醐味である。頭おかしい。

少年時代、ドラクエが好きだった私はゲームそのものと同じくらい、ドラクエの攻略本を愛していた。攻略本に書かれた武器や魔法、モンスターの説明を眺めながら冒険への想像を膨らませるのが好きだった。その楽しさを、そのまま形にしてしまったのがこの「ダンジョン飯」なのだ。

想像の産物であるモンスターの生態や内臓機構をまるで見てきたみたいに緻密に描写し、逆に現実生活で馴染みのある調理方法で美味しく料理し、味わってしまう。その行程がとても面白く、そして美味しそうに描かれているのである。

ずいぶん前の記事になるが三崎亜記氏の「鼓笛隊の襲来」という本を絶賛したことがあった。そのときの感想がこの作品にも言えると思う。

荒唐無稽としか言いようがないお伽話を、身に迫るものとして読者に疑問を抱かせずに描ききってしまう勢いと精密さが同居したスタイルが素晴らしい。その世界を脳内で創り出してしまう創造力、そこから選りすぐりの面白い場面を切り出してくる構成力、何より見たこともない事柄をありありと描き切る表現力。全てがエンターテイメントの技術として昇華されている。

言葉で説明するよりも、実際漫画を目にしていただいた方が魅力を理解していただくには早いのであるが、あいにく単行本の発売直後に纏めサイトで取り上げられてネット上で話題になってしまったせいかAmazonでも入荷待ちの状態が続いているようである。

ファンタジーへの憧憬と妄想で一時代を過ごした人たちには実に読み応えのある漫画だ。そういうのが好きな人、好きだった人には強烈におすすめしたい。腹が減ること間違い無しだ。