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読書感想にかこつけた自分語り

読書感想:『公文書問題 日本の「闇」の核心』瀬畑源

 すっかり人気番組と化した国会中継を眺めていて、なにか参考になる本が欲しいなと思っていたところで見掛けて購入した本。こうした本はなんと言っても鮮度が重要であり、いまがまさに食べ頃である。ここ数ヶ月が旬だと思うので暇な人は本屋に走るかAmazonでポチるとよい。久しく忘れていた週刊漫画誌を追いかけているような感覚を味わえるはずだ。これでお話がフィクションであれば完璧だったのだが、残念ながらいまの暮らしや将来に関わる内容である。

 

 いままさに世間を賑わせている森友学園の国有地売却費問題、さらに加計学園問題や東京都の豊洲市場移転問題などの騒動が泥沼化・長期化したのは「公文書が残っていないために事実確認ができない」という点(あるいは、そうした答弁が行われた点)にある。

 本書では最近取り沙汰された諸問題に端を発し、日本が公文書をどのように位置付け、またどのように扱ってきたのかという歴史的な観点と現在の情勢、さらにその問題点や今後の展望を解説していく。

 

 この本の発行日は今年の2月21日であるので、特に森友学園問題に関しては執筆当時から情勢がさらに変化し与党政権にとっては大打撃になりつつある。一方で問題の本質自体には変わりがなく、その真相究明と責任の所在という着地点に延焼が広がっただけとも言える。少なくとも本書を読むことで上記の騒動に対してはなにが問題であったのかと、再発防止に必要な対策がどのようなものであるかの概要を掴むことができる。最近の報道では紛糾のあまり論点がわかりづらくなっているが、本書はシンプルな視点から問題を見つめ直す契機になるため、そうした意味でも有意義であろう。

 タイトルと内容がこれなので、政権批判に関する文言が多いのだろうなあと思いながらページを開いたのだが予想に反して中立的で読みやすかった(こんなことを言ったら失礼か)。もちろん公文書の廃棄や改ざんに組みした官僚や、その公共性の保持に消極的な議員に対しては厳しい批判を投げかけてはいるが、筆者の問題意識は行政文書のアーカイブズ機能を確立させることにある。それがひいては国民の情報問題への啓発と民主主義的良心の育成に繋がると信じているからだ。

 そもそも上記の問題がここまで泥沼化してしまったのは、行政文書を公開することがなんらかの不利益になるという考えから記録を残さなかったり廃棄してしまったことに端を発している。結果的にはきちんと文書を残しておけば責任の所在も明らかになり、一定のダメージで済んだことが、そうした記録がないことで際限のない追求を受ける現状を招いてしまった。公文書や行政文書を保管しておくことは正統性の証明にも繋がるという観点は、特に興味深く読ませてもらった。

 

 失敗やミス、不正といった物事は繰り返さないことが重要であるし、そのためには検証可能な資料が残されている必要がある。当然、公開することが相応しくない文書や不利益を生む内容を孕んだ記録も存在することになろう。そして、それらをすぐに公開する必要はないのだ。然るべきときまでアーカイブズとして保管しておくことで、後々必要性や正統性が審議されたときの担保として生きるのである。そうしたバックボーンを失ってしまえば、無用な衝突や疑念ばかりが拡大し、上記のような問題が起きてしまうことになるのだ。

 痛い腹を探られたくないあまり(痛いのがそもそも間違ってるんだけど)知らず存ぜずを通した結果、より致命傷に近い打撃を被りそうな現政権がこうした問題を見つめ直してくれるといいのだが。イエロージャーナリズムと十把一絡げに陰口を叩かれているマスコミの正念場もここになるだろう。

 どんな業界にも気概のある人間はいるものだし、そうした仕事が実を結び豊かな生活に繋がることに期待している。