でろでろ汽水域

読書感想にかこつけた自分語り

さらばアドリア海の自由と放埓の日々よ、ってワケだ

紅の豚』の主人公、ポルコ・ロッソの小洒落た会話。このセリフのあと、酒を舐めている老人から「それバイロンかい?」と尋ねられ「いや、俺だよ」と返すのが格好いい。

 なんとなくの雰囲気だけで、この会話の趣旨を理解できていないジブリファンは少なくないのではなかろうか。老婆心ながら解説を加えると、この会話は表題のセリフを「それバイロン(イギリスの詩人)かい?」と訊いたのに対して「いや、俺(のオリジナル)だよ」と応えているのだ。

 へべれけの爺さんにもバイロン卿の詩に対する教養があり(そういう人でも安酒を舐めるくらいしかやることがない)、飛行機乗りで他国に対する知識も豊富であろうポルコに疑問を投げ掛けているわけだ。買い物中の世間話でこうしたやりとりが気軽にできるところに、人間的な厚みとポルコに対する信頼感、当時の情勢などがにじみ出ている。たった十数秒ではあるが、飛び抜けて洒落ているシーンだ。

 ちなみに私は「バイロン」という中国由来の携帯食みたいな物を買ったのか、と聞かれて「俺だよ(豚肉だよ)」と返しているのだとしばらく勘違いしていた。大学生の頃にバイロン卿の存在を知り、ようやく会話の正体に気づいた次第である。

 以上。ジブリ豆知識でした。

 

 さて。とうとう明日から社会人復帰である。なので表題のセリフを引用したくなったのだ。

 昨年退職してから丸一年、のんびりと無職生活を楽しませて貰った。それほど退屈はしていないし働かずに食べるメシも美味しい。生活に不満はまったくないのだが、いかんせん金がなくなってきた。金がないと酒も飲めないし本も買えず、スマホの通信料を払うこともできなくなってしまう。そこまで快適な生活を求めているわけではないが、自然回帰主義でもまったくない。よろしい。働こうではないか。

 

 昨年の4月は引っ越しに向けた賃貸アパートの片付けで幕を開けた。狭いワンルームの部屋なのに、いざ片付けを始めると出るわ出るわゴミの山。9年間という歳月に押し込められていた物質群が、急にその束縛から解き放たれて膨張を始めたのではないかと疑ったほどだった。捨てれど纏めれど部屋が綺麗にならない。幸い近くにゴミ処理センターがあったので、軽自動車の後ろに不要物を積んでは捨てに行く日々が始まった。一日中Netflixを垂れ流しながら片付け作業をし、部屋を空っぽにするのには2週間を費やした。実家に帰ったのは4月の中旬。世間の人の異動が落ち着いた頃、桜前線と同じタイミングで新潟を去った。

 

 早いものであれから1年。当時感じていた慢性的な疲労感もすっかり抜けて、いまはどちらかと言うと新生活が楽しみな気持ちが強い。しばらくは覚えることが多くて忙しいだろうとは思うが勉強は嫌いではない。そのうち田植えの準備も始まるし冬場の鈍った身体には堪えることもあるだろう。

 いずれにせよ再出発だ。今後は頻度は落ちるかもしれないが、定期的にブログは更新していきたい。もちろん読書も。