でろでろ汽水域

読書感想にかこつけた自分語り

2018-01-01から1年間の記事一覧

3月11日に考えていたこと

数年前から「3.11を忘れない」というメッセージが「3月11日“だけ”思い出す」という免罪符的な傾向を強めているような気がして、その日が近付くにつれ様々なメディアを見るのが億劫になっている。 記憶を繋いでいこう、忘れないようにしようという過去…

読書感想:『劇場』又吉直樹

単行本ではなく『新潮』で読んだ。この作品が掲載されているのは2017年の4月号だから発売からおよそ1年経っていることになる。それでも私の積ん読のなかでは古参というわけでもない。新しいのを買わなければいいのだが、それは本を読むより難しい。 こ…

読書感想:『アイネクライネナハトムジーク』伊坂幸太郎

すごく率直に、若干の悪意を込めて言ってしまえば、退屈なときの伊坂幸太郎小説を煮詰めた感じの作品。殺人事件や得体の知れない悪人など伊坂作品のテーゼになるような底知れぬ悪徳は存在せず、代わりに普段そうした悪意に影響されたり翻弄されたりするよう…

私とドラゴンクエスト 続き

前後編にするほど大した話でもないのだが、昨日の話は書いているうちに興ざめしてしまって最後まで書く力を収斂することができなくなった。書いているあいだに吐き出したいものがすっきりしてしまって、この文章群は結局すっきりするための行為が生み出した…

私とドラゴンクエスト

ドラゴンクエスト11のつまらなさは、紅白歌合戦のそれに通ずるものがある。さっきひょっこり思いついた。 言い換えるなら、最新技術で構成される絶妙な古臭さだ。センスが古い。キャラクターが古い。メッセージ性が古い。演出が古い。それらはある程度まで…

読書感想:『夜また夜の深い夜』桐野夏生

秘密めいた手紙から幕を開ける物語は、ナポリのスラム街から始まる。偽名を使うことを強制し、住居を転々としながら整形手術すら辞さない秘密主義者である母親と二人きりで生活している少女からの手紙。日本人の名前(舞子)を持つ彼女は、それを唯一の拠り…

読書感想:『移民の政治経済学』白水社

翻訳本。著者はGeorge J.borjas。翻訳家は岩本正明。 アメリカのひとつのアイデンティティにもなっている移民政策についての諸問題を、特に経済の観点から見つめ直すことを主題にした作品。一般向けの本なので特別な知識は不要であるし、数値や政策を主体と…

次週は作者取材のため休載です、考

今日も読み終わらなかった。しょうがない。だって『ねじまき鳥クロニクル』を読み始めちゃった。『リトル・ピープルの時代』を深く理解するには自分にも感覚の追体験が必要だと感じてしまった。 実は先に読んだ『母性のディストピア』でも、宮崎駿と押井守は…

箸休めと近況

今日は読了した本がないので感想文が書けない。フィクションであれば長くても3時間集中できる時間ができれば(無職の私にはその時間の確保は難しいことではない)読み切ることができるが、学術書や評論の類になるとそうはいかない。一通り目を通すだけなら…

読書感想:『生物と無生物のあいだ』福岡伸一

だいぶ前にベストセラーになった著書であると記憶している。購入したのもその頃だ。買ったはいいものの書架の賑やかしとなり、長らく埃を被っていたのを今更紐解いてみたわけだが、刊行から10年以上経ったいまでも大変面白く読めた。著者が携わってきた様…

読書感想:『王とサーカス』米澤穂信

よく社会人は「学生は気が楽だ」とか「学生のうちの苦労なんて大したことはない」と矮小化して考えてしまうが、私はそうは思っていない。住んでいる世界が違うだけで、そこにある辛苦や地獄がのし掛かる重み自体には変わりがないはずだ。仮に、その枠組み自…

読書感想:『おらおらでひとりいぐも』若竹千佐子

単刀直入に言うが、これまで読んできた芥川賞受賞作の中でずば抜けて、一番面白かった。圧倒的に面白かった。受賞作を惰性的に読んでいた身として、初めてこの賞の存在に感謝した。そのくらい面白かった。いや本当に驚いた。 文章は三人称の標準語の視点と、…

読書感想:『豆の上で眠る』湊かなえ

今日も『おらおらでひとりいぐも』じゃねえのかよ、と思われるかもしれないが、芥川賞は独特の〈気〉みたいなのがあって連続で読んでいると自家中毒が起きるので間隔を置いている。嘘だけど。 ちなみにW・H・マクニールの『世界史』や『戦争の世界史』、『蜻…

読書感想:『鼻』曽根圭介

「昨日『百年泥』の感想だったのに『おらおらでひとりいぐも』の感想じゃないんかい!」というツッコミがありそうだが、私は同時平行的に数冊の本を読むタイプなので傾向がブレる。歴史や評論、経済など少し堅めな本を一冊、それに疲れたときに息抜きになり…

読書感想:『百年泥』石井遊佳

言わずと知れた第158回芥川賞受賞作。今回は受賞者がふたり、そして両者とも作家としてはそれほど若くない(という言い方に留めておこう)ことも話題となった。読書が趣味、を名乗る身としては芥川賞と直木三十五賞の受賞作くらいは読んでおかなくてはな…

読書感想:『オーパーツ 死を招く至宝』蒼井碧

単刀直入に言うとミステリーとしてもエンタメとしてもガッカリな出来だと感じているので、読んでいて気持ちのいい感想文にはならないだろう。ご容赦を。 あまり面白くなかったとはいえ、ぶらりと立ち寄った本屋で平積みになっているのを見掛けてタイトルの絶…

読書感想:『いま世界の哲学者が考えていること』岡本裕一朗

以前から哲学については興味を持っていたのだが、それに対して暗記科目以上のアプローチができるようになったのはごく最近のことだ。高校倫理でソクラテスから始まる一通りの流れは学習しているはずなのだが、代表的な哲学者の名前と思想の表題に触れる程度…

読書感想:『真実の10メートル手前』米澤穂信

ずいぶん前にミステリーのベストセラーを特集した棚で見つけ、タイトルが気に入って購入した作品。衝動買いした本の宿命として積ん読の山に一度埋没したが『氷菓』をたまたま読んだことから「著者が一緒だ」と気が付いて発掘。しかし作品の時系列として先日…

読書感想:『どちらかが彼女を殺した』東野圭吾

※以下、ミステリー作品の内容、作品の核心に触れる記述があります。 ミステリー小説は解決編の前に読者自身でしっかりと推理をしてから読んだら(読みながらの“ながら推理”はほとんどの読者がしていると思うが、もっと本格的なやつ)最高に面白いのではない…

読書感想:『さよなら妖精』米澤穂信

米澤穂信の作品は『氷菓』から読み始めた。シリーズを通じて生き生きと描写される、学生生活におけるポテンシャルとしての熱量と個々人が抱える気怠さの対比。そして、ミステリアスでありながらどこか生活感や手癖のような日常の気配が色濃く見える謎の存在…

読書感想:『死にたい夜にかぎって』爪切男

ついに発刊となった爪切男さんの処女作。過去の同人誌や日刊SPA!の連載で実力は折り紙付きであったが、それだけに一冊の本でなにを語るのかは書籍化決定当初から気になっていた。だからTwitterでタイトルが発表された際には少し驚いた。これまでの直接的で…

読書感想:『銀河鉄道の父』門井慶喜

詩人、宮沢賢治の生涯を、その実父である政次郎の視点から描いていく作品。途中からは賢治の目線も加わるが、主役は本題の通り〈父〉にある。 読み終えてまず思ったのは、どこまでが事実でどこからが物語なのか、ということだった。途中で何度か「これ伝記じ…

読書感想:『ここは、おしまいの地』こだま

衝撃のデビュー作から1年、待望の新作。Quick Japanで連載中のエッセイを加筆修正しての発刊となった今作は、著者の(主に苦い)経験を“いま”に軸足を置いて語られる。前作がすでにそうだったのだが、今作も重い・辛い・苦しいの三重苦。いや、クサいもある…

いった年きた年

新年を迎えてから早いもので一週間が経過した。四十九日は明けたとはいえ喪中の身であるので新春の挨拶は控えさせていただくが、今年も何卒よろしくお願いいたします。 昨年は大学卒業以来、久しぶりに暇を持て余した一年だった。仕事を辞めて四月に実家に帰…